1枚目は「残照」から始まった。
千葉県君津市の鹿野山(かのうざん)の風景。
大好きな絵だ。
魁夷39歳、第3回の日展で特選になり、画家の転機となる作品となった。
展覧会は第1章から第6章で構成されており、会場も3階と4階の2つに分かれていた。
展覧会の第1章は有名な絵が多く、遠目でもすぐにタイトルが分かるものばかりだった。(いや、ほとんどの絵はタイトルが思い浮かぶ。)
有名な「道」。
そして私は「たにま」も好き。
一見、単純に見えるこの絵だが、よく見ると白と緑の色の複雑さと構図が面白く好きである。
少しモダンに見える「松庭」も第1章に展示されていた。
第2章は北欧の風景。
一番有名なのは「冬華」かもしれない。
仕事で北海道に住んだ時、まさに東山魁夷の世界があると思った。
夜に白く浮かび上がる白樺の林や深く青みがかった緑は地元にはないものだった。
次の第3章は京都。
失われつつある古都の風景を描き残すことを作家の川端康成に勧められたのだ。
池波正太郎も同じことを著者の中で嘆いている。
その時代は子供だったが、きっと古き良き時代だったと偲ばれる。
ここで有名なのはおそらく「花明かり」。
後述する画集「A rt Alb u m」には画家の言葉がある。
「円山の花の盛りと、月の盛りが巡り合った時、大地は一瞬、静まりかえって見えた。人々の雑踏、篝火の焰、ぼんぼりの灯も、全てが消え失せてー」
この絵も好きだが、私はその隣に展示されていた「京洛四季」の1枚「行く春」も好きだ。(後述の画集より)
第3章には小さな習作も展示があり、その1つ1つも素晴らしく見飽きることがなかった。
そして、第4章は古都でもドイツとオーストリアの風景。
大好きな「緑のハイデルベルク」はあったが「晩鐘」はなかった。
「緑のハイデルベルク」はこんな絵だ。
全体にグリーンがかっていて、穏やかで静かな絵である。
第5章は、唐招提寺御影堂の障壁画。
全ての仕事を断り、10年の歳月をかけて臨んだ大作である。
中国にも足を伸ばし、2,000枚ものスケッチを描いたという。
「桂林月宵」という障壁画が特に好きである。
この章の葉書は持っていない。今回も買わなかった。
そして、第6章。心を写す風景。
私の好きな「私の窓」の展示はなかった。
この章の1番最後が絶筆となった「夕星」だった。画家の最後の作品である。
ここは現実にある場所はなく、画家の心象風景だという。
画集には、こう書かれている。
「これは何処の風景と云うものではない。そして誰も知らない場所で、実は私も行ったことが無い。つまり私が夢の中で見た風景である。私は今までずいぶん多くの国々を旅し、写生をしてきた。しかし、或る晩に見た夢の中の、この風景が忘れられない。たぶんもう旅に出ることは無理な我が身には、ここが最後の憩いの場になるのではとの感を秘めながら筆を進めている。」
・・・1999年の作品である。
私はこの作品と1996年の「星降る夜」という作品も大好きだ(これは展示がない)。
さて東山魁夷が大好きで、一番買ってよかったと思っているのがこの画集。
生誕100年を祝して講談社から2008年3月に発売された全3巻のアートアルバムである。
厚手の紙の箱に3冊セットで入っている。
絶版になっており、買っておいて本当に良かったと思う。
Sと一緒に行った千葉県市川市にある東山魁夷美術館で見つけて、迷った末に買ったのだ。
かなりの頻度で開いている。気持ちが穏やかになる。
- 美しい日本への旅
- 森と湖の国への旅
- 心の風景を巡る旅
の全3巻。
定価は1冊3,000円だが安いと思う。
作品と共に画家の文章が添えらており、画家の取材マップや作成中の写真や、掲載作品の場所や収蔵されている美術館の一覧などの情報もしっかりある。
昔は、ちょくちょくSと一緒に長野県にある信濃美術館(東山魁夷館) に行っていた。
今は休館中なので再開したらまた行きたい。
最近、絵葉書は増える一方なので買わずにいたが、今回は特別。
人に出す分と別に7種類購入した。
(「残照」の左側が今回展示のなかった「晩鐘」である。)
当日であれば再入場可能なので、朝から昼までとランチの後再び戻り、夕方まで見ていた。
久しぶりに東山魁夷の本物の絵に触れて大満足の1日だった。
都内で見るより人が少なく、ゆっくり見られるので、期間中、もう一度行きたいくらいだ。
美術展に行けない人は、この画集を見るだけでも楽しいと思う。